先に結論
仲介会社に断られても、承継や売却の道がなくなったとは限りません。小規模・赤字の案件は仲介会社の報酬の仕組みに合いにくいことがあり、公的な事業承継・引継ぎ支援センターや日本政策金融公庫の無料のマッチング、M&Aプラットフォーム、一部の事業だけの承継、中小企業活性化協議会での再生などを比べて検討できます。焦って不審な相手と取引しないことも大切です。
この記事のポイント
仲介会社が小規模・赤字の案件を断る一般的な理由
仲介会社が依頼を断る理由は会社ごとに異なり、はっきりとは説明されないこともあります。ただ、手数料の仕組みを知ると、背景をある程度推し量れます。仲介会社の手数料には着手金や月額報酬などのほか、成約時に支払う成功報酬があり、成功報酬は、譲渡額や、譲渡額に負債を加えた「移動総資産額」、純資産額などを基準に、金額の段階ごとに料率を掛ける「レーマン方式」で計算されることが多いとされています。
中小M&Aガイドライン(第3版)は、売り手が小規模な場合は基準となる金額が小さく、十分な成功報酬を確保できないことがあるため、最低手数料を設けている仲介会社やFAが多いと説明しています。ガイドラインの計算例の一つでは、譲渡額5,000万円の案件に最低手数料1,000万円(税抜)が適用され、税込の手数料は譲渡額の2割を超えています。譲渡額が小さく見込まれる赤字の会社では、手数料が売り手の手取りを大きく削ってしまうため、引き受けを見送る判断につながることがあります。
手数料のほかにも、判断に影響する事情があります。ガイドラインによれば、業種の先行きや財務の状態、売り手が希望する条件などによって、相手探しの難しさは変わります。債務超過の会社では借入の整理などの手続きを伴うことがあり、特定の業種や地域に絞って活動する仲介会社もあります。断られたという結果は、会社の価値の否定というより、その仲介会社の仕組みや得意分野と合わなかったことを示している場合があるのです。
断られたあとに、まず確かめたいこと
ガイドラインは、相手がなかなか見つからないときは、支援機関にその理由を確認するなどして分析したうえで、活動を続けるかどうかを検討するよう勧めています。断られたときも同様で、手数料の面なのか、買い手の見込みなのか、負債の大きさなのかが分かれば、次に相談する先の選び方が変わります。次の相談先を一人で決めかねるときは、当窓口にご連絡いただければ、事情を整理したうえで公的な窓口や専門家をご紹介します。
次に確かめたいのが資金繰りです。相手とのマッチングには、数か月から1年程度を見込むのが一般的とされています。その間に資金が尽きそうなら、相手探しと並行して、返済条件の見直しや事業再生の相談を急ぐ必要があります。時間に余裕があるなら、希望する価格や引き継ぐ範囲、譲り渡しの方法(株式譲渡か事業譲渡か)を見直すことで、相手が見つかりやすくなる場合もあります。
すでに仲介会社と契約していた場合は、契約書の専任条項(他社への依頼を制限する条項)と契約期間、テール条項(契約が終わった後の一定期間内にM&Aが成立すると、元の依頼先が手数料を請求できるとする条項)を確認してください。ガイドラインは、別の支援機関に頼みたいときは元の依頼先に相談して了承を得るか、契約期間の満了や解約で契約を終えてから依頼する方法を示し、テール条項は契約終了後も適用に注意が必要だとしています。
公的な窓口と、マッチングの場を使う
民間の仲介会社のほかにも、相手を探す手段はあります。事業承継・引継ぎ支援センターは、国が全都道府県に設置している公的な相談窓口(全国48か所)で、相談は無料です。M&Aに限らず、親族や従業員への承継、廃業についても相談でき、ほかの仲介会社の助言についてセカンドオピニオンを求めることもできます。
センターからは、登録された民間の支援機関(小規模な事業者の支援を目的とする地域の士業なども含む)へ橋渡しを受けられます。その場合は依頼先との契約で手数料がかかりますが、適当な依頼先がないときはセンター自身が相手探しや手続きを支援することもあります。創業をめざす個人と後継者のいない事業者を引き合わせる「後継者人材バンク」も運営されています。
日本政策金融公庫の「事業承継マッチング支援」も無料で使えます。原則は公庫から事業資金を借りている事業者が対象ですが、借入がなくても商工会議所・商工会や税理士などの紹介があれば利用できます。公庫は、赤字や債務超過でも利用できる一方、その程度によっては相手が見つかりにくくなる可能性があると説明しています。公庫が行うのは相手の紹介や情報提供までで仲介はしないため、条件の交渉や契約には専門家の支援を検討します。
インターネット上で相手を探すM&Aプラットフォーム(マッチングサイト)は、売り手が無料で登録できるところが多く、ガイドラインは、多額の手数料を払う余力のない小規模な事業者にも可能性が広がったと評価しています。サイトによって登録する情報や公開の範囲、成約までの支援の有無が違うため、数社を比べて選びます。サイトが担うのは原則として相手との出会いまでで、交渉や契約は当事者が進めることになるため、支援センターや士業の力を借りながら進めるのが望ましいとされています。取引先や地域の同業者、従業員など、身近な相手に自ら声をかける方法もあります。
仲介会社やFAの費用の一部を補助する国の制度(事業承継・M&A補助金)もあります。対象となるのは「M&A支援機関登録制度」に登録された支援機関の業務に限られ、要件や受付期間は公募回ごとに変わるため、公募要領で確かめてください。
会社ごとではなく「一部の事業」を引き継ぐ
会社全体をそのまま引き継ぐ相手が見つからなくても、事業の一部なら関心を示す相手がいることがあります。ガイドラインは、会社全体では利益を出せない債務超過の会社でも、部門別や店舗別に切り分けて精査すると黒字の優良な事業を持っていることが多いと述べています。そうした事業だけを事業譲渡などで譲り渡せば、従業員の雇用の受け皿を確保しやすくなり、対価を残りの事業の廃業費用に充てられる可能性もあります。その事業に携わってきた役員や従業員に譲るという選択肢もあります。
ただし、借入の多い会社が事業の一部を切り出すときは注意が必要です。ガイドラインは、債務超過の会社が事業を譲り渡す対価が不当に低いと、債権者から詐害行為取消権(民法424条)を、法的整理に進んだ場合には否認権を行使されるなどのリスクがあり、少なくとも破産した場合の価値(清算価値)を相当程度上回る金額が求められるとしています。事前に債権者へ説明を尽くし、了承を得ておくことが望ましいとされており、進め方は弁護士と相談しながら決めることになります。
中小企業活性化協議会などの関与のもとで事業を別会社に移し、元の会社を特別清算などで整理する「第二会社方式」がとられることもあります。事業譲渡や会社分割といった方法の違いは、関連コラムで詳しく解説しています。
売却以外の道も並べて比べる
相手探しと並行して、立て直しや廃業の道も比べておくと、判断を誤りにくくなります。中小企業活性化協議会は、国が47都道府県に設置している公正中立な機関で、財務上の課題を抱える中小企業・小規模事業者を対象に、収益力の改善、金融機関との調整を含む再生計画の策定、円滑な廃業と経営者・保証人の再スタートに向けた支援を行っています。課題の整理と助言を受ける第一次段階(窓口相談)までは無料で、計画づくりなどの第二次段階で外部の専門家が関わる場合は、その費用の一部を負担することになります。
やむなく廃業を考える場合でも、設備や取引先などの経営資源を引き継ぐ道は残ります。ガイドラインは、ほかの方法での承継も難しく廃業せざるを得ないときは、事業用資産などの経営資源の引継ぎの検討を始めることを勧めており、事業承継・引継ぎ支援センターもこうした相談に応じています。
経営者保証がある場合について、ガイドラインは「経営者保証に関するガイドライン」を活用し、保証債務の免除を受けながら一定期間の生計費や華美でない自宅などを残せる方策を検討する必要があるとしています。借入の整理や保証の扱いは法律の問題になるため、弁護士に相談してください。日本弁護士連合会の「ひまわりほっとダイヤル」では、電話で弁護士との面談を予約できます。
焦って不審な相手に飛びつかないために
売却を急ぐ気持ちにつけこむ相手もいます。中小M&Aガイドラインは、M&Aの成立後に売り手の会社の資金を個人の口座へ送金したり、経営者保証を引き継ぐ前提だったのに移行しなかったりする不適切な買い手の存在を指摘しています。こうした相手に会社を渡すと、保証だけが元の経営者に残り、会社の資金も失われるおそれがあります。
口座に関する話はとくに危険です。預貯金の通帳やキャッシュカード、ネットバンキングのIDなどを、正当な理由なく有償で譲り渡したり譲り受けたりすること、その勧誘や広告は、犯罪収益移転防止法で処罰の対象とされています。2026年7月10日に施行された改正では、これらの罰則が引き上げられました。経営者個人の口座はもちろん、会社の口座についても、口座そのものに値段をつけるような話には応じないでください。
経営者保証は、M&Aの成立前に保証先の金融機関へ相談し、最終契約での扱いを詰めておくことが基本です。不適切な買い手の情報を業界で共有する仕組みに参加しているかどうかも、ガイドライン上、仲介会社やFAが依頼者に説明すべき事項とされています。依頼先は、「M&A支援機関登録制度」(中小企業庁)のホームページ(https://ma-shienkikan.go.jp)で登録の有無や手数料の体系を調べられ、気になる事例は同制度の情報提供受付窓口に寄せることもできます。登録は判断材料の一つにとどめ、説明や契約書の内容も自分で確かめましょう。
相手の言葉が魅力的に聞こえるときほど、条件を書面で確かめ、弁護士や公的な窓口の意見を聞く時間をとってください。次のような様子が見えたら、いったん立ち止まるのが安全です。
- 成約の前に、通帳・キャッシュカード・ネットバンキングのIDなどを渡すよう求める
- 「口座が付いていれば高く買う」など、事業より口座に関心を示す
- 経営者保証の解除や借換えについて、具体的な約束を避ける
- 自社の決算や資金の出どころを示そうとしない
- 契約を急がせ、弁護士や金融機関への相談を嫌がる
よくある質問
Q. 複数の仲介会社に同時に依頼してもよいですか?
A. 専任条項がなければ可能な場合もありますが、利点と注意点の両方があります。ガイドラインは、幅広く候補先の紹介を受けられる可能性がある一方で、同じ会社の情報が複数の経路から同じ買い手に届くと「情報が出回っている」と受け取られ、買い手の心証を損ねることがあると指摘しています。依頼先を増やす前に、情報をどこまで出すかを決めておきましょう。
Q. マッチングサイトに登録すると、従業員や取引先に知られませんか?
A. 会社名を伏せた情報でも、インターネットの性質上、会社が特定されるおそれはあります。ガイドラインは、一度ネット上に出た情報は完全に消すのが難しいとして、公開されても受け入れられる程度の情報にとどめる慎重さを求めています。閲覧できる相手を法人に限るサイトもあるので公開範囲を比べて選び、極秘で進めたい場合は仲介会社やFAとの使い分けも考えます。
Q. 相手が見つかる前に資金が尽きそうなときは、何を優先すべきですか?
A. 相手探しより先に、資金繰りの立て直しと支払いの優先順位の整理が必要になることがあります。返済条件の見直しや事業再生は中小企業活性化協議会や弁護士に、税金や社会保険料の納付が難しい場合は税務署や年金事務所に、早めに相談してください。支払いを止める判断は事業や信用への影響が大きいため、専門家と相談せずに決めないことが大切です。
参考にした公的な情報
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」 https://www.meti.go.jp/files/900016275.pdf
- 中小企業庁「M&A支援機関登録制度」 https://ma-shienkikan.go.jp/
- 日本政策金融公庫「事業承継マッチング支援 Q&A」 https://www.jfc.go.jp/n/finance/jigyosyokei/matching/faq/
- 中小企業基盤整備機構「中小企業活性化協議会による支援」 https://www.smrj.go.jp/sme/succession/revitalization/index.html
- 警察庁「令和8年犯罪収益移転防止法の改正について」 https://www.npa.go.jp/bureau/sosikihanzai/hansyu/houritukaisei.html
- e-Gov法令検索「犯罪による収益の移転防止に関する法律(第26条)」 https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000022
※ 本記事は一般的な情報提供であり、個別の状況についての税務・法務・会計の判断ではありません。具体的な判断は、税理士・弁護士などの専門家や公的な窓口にご確認ください。 当窓口は、ご相談の内容に応じて専門家や公的な相談窓口をご案内・ご紹介します(ご相談の仕組みと紹介の方針)。