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M&Aの基礎知識と注意点

悪質な買い手・会社売買業者の見分け方|口座の売買は犯罪です

「負債ごと引き受けます」「すぐに買います」という話が、会社と経営者の生活を危うくすることがあります。被害を避けるために、国が示している注意点を確認しておきましょう。

先に結論

2024年以降、経営の苦しい中小企業をM&Aで買った後に会社の資金を吸い上げ、経営者保証を外さないまま負債を残して連絡を絶つ、といった不適切な買い手の存在が中小企業庁の資料で指摘されています。保証の解除を契約に入れたがらない、通帳やカード、ネットバンキングの情報を求めるといったサインがあれば手続きを止め、弁護士や公的な窓口に相談してください。預貯金通帳などを他人に渡す行為は犯罪で、2026年7月から罰則が重くなっています。

この記事のポイント

国も注意を呼びかけている資金を抜き、保証を残したまま連絡を絶つ手口が、中小企業庁の資料で指摘されています。
保証の扱いは契約で固める保証の解除・引継ぎを買い手の義務やクロージングの条件にし、事前に金融機関に相談します。
手続きと別に通帳・カードを渡さない口座を他人に使わせるための通帳などの譲渡は犯罪収益移転防止法で禁じられ、勧誘や広告も処罰の対象です。
迷ったら一人で決めない弁護士、警察相談専用電話(#9110)、事業承継・引継ぎ支援センターに相談できます。

国が注意を呼びかけている手口

中小企業庁が2025年8月に公表した「中小M&A市場改革プラン」は、2024年以降、不適切な譲り受け側(買い手)が経営の苦しい中小企業とM&Aを行った後、会社から資金を吸い取る一方で経営者保証を解除せず、負債を残したまま連絡を絶つ手口を繰り返す事案が指摘されていると記しています。同じ趣旨の指摘は、2024年8月に改訂された中小M&Aガイドラインや、その参考資料にも記されています。

売り手から見ると、会社を手放したのに、会社の借入の保証人としての責任だけが経営者個人に残る事態です。会社の資金が抜かれて返済が止まれば、保証の履行を求められるおそれがあります。中小企業庁は2024年5月の注意喚起で、とくに経営者保証を引き受ける前提で低い譲渡額を示されるような提案には注意するよう呼びかけています。

こうした買い手とのM&Aを支援した仲介会社などについて、中小企業庁は、M&A支援機関登録制度の登録取消しや注意の発出などの対応をとったことを公表しています。2024年8月の中小M&Aガイドライン第3版では、仲介者・FAに対し、買い手の財務状況やトラブルの有無の調査と、その概要の説明を求めるようになりました。

危ないサインのチェックリスト

買い手の言動には、注意したいサインがあります。なかでも、経営者保証の扱いに消極的なことや、資力・素性がはっきりしないことは、国の資料が注意を促している点と重なります。説明を求めても納得できる答えが返ってこない場合は、取引を見合わせることも大切な判断です。

国や業界の資料で注意点として挙げられている事柄や、犯罪につながるおそれのある行為を次にまとめました。一つ当てはまるだけで不正と決まるわけではありませんが、当てはまるものがあれば話を進める前に立ち止まり、第三者の意見を聞いてください。

  • 通帳・キャッシュカード・印鑑・ネットバンキングのIDやパスワードを、正式な手続きとは別に渡すよう求める
  • 「法人口座付きなら高く買う」など、事業の中身より口座に関心を示す
  • 経営者保証の解除・引継ぎを最終契約に入れたがらない、金融機関への事前相談を嫌がる
  • 「保証を引き受けるから」と、ごく低い譲渡額を示す
  • 決算書や登記、代表者、買収資金の出どころなど、自社の素性や資力を明かさない
  • 「今日決めれば」と決断や決済を異常に急がせ、DDや専門家の確認を省こうとする
  • 契約の前に、手付金や保証金などの前払いを売り手に求める
  • 代金の多くを分割払いや後払いにしようとする

口座を他人に使わせるための受け渡しは犯罪です

犯罪収益移転防止法は、他人になりすまして預金口座を使う(使わせる)目的で、預貯金通帳、キャッシュカード、預金の引出しや振込みに必要な情報(インターネットバンキングのIDやパスワードなど)を譲り受けたり、その目的を知りながら譲り渡したりすることを禁じています。通常の商取引などの正当な理由がないのに、お金をもらって譲り渡すことも同様です。

2026年7月10日に施行された改正で罰則が引き上げられ、3年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金(またはその両方)、業として行った場合は5年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金となりました。こうした譲渡をするよう人を勧誘したり、広告などで誘ったりする行為も、同じ罰則の対象です。全国銀行協会も、口座を売る・買う、貸す・借りる、譲り渡す・譲り受けることはすべて犯罪であり、売買された口座は振り込め詐欺などに悪用されていると注意を呼びかけています。

通常のM&Aでは、株式譲渡なら会社の口座は会社のものとして残り、代表者の交代は登記や金融機関での手続きを通じて進めます。事業譲渡では売り手の会社の口座は引き継がれず、売掛金の振込先を変更するのが通常です。こうした手続きとは別に、通帳やカード、パスワードを買い手に手渡すよう求められたら、応じる前に弁護士や警察に相談してください。

経営者保証を守るための契約と手順

会社を売っても、経営者個人の連帯保証は自動的には外れません。中小企業庁の参考資料「中小M&A時の経営者保証の取扱いについて」は、M&Aの成立と同時に保証の解除や買い手への移行を行うことが最も優先されるべき対応だとし、そのために、できるだけ最終契約の締結より前の早い段階から保証先の金融機関に相談を始めることを求めています。

最終契約では、保証の解除・移行を買い手の義務として定め、クロージングの条件にすることや、実現しなかった場合の契約解除・補償の条項を入れることを検討します。金融機関の審査を待つ時間がない場合は、買い手の資金で借入を返済・借り換えてもらう方法も有効とされています。買い手がこうした協力や借り換えの要請に応じない場合は、財務の健全性に問題がある可能性があり、M&Aを進めるべきか慎重に検討すべきだとされています。

金融機関の側にも、2024年8月の金融庁の監督指針の改正などにより、M&Aに伴う保証の解除などの相談を受けた場合に「経営者保証に関するガイドライン」に沿って対応することが求められています。保証の扱いは、弁護士や事業承継・引継ぎ支援センターにも相談できます。

相手と支援機関を確かめる方法

仲介会社やFAを使う場合は、中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」のサイト(https://ma-shienkikan.go.jp)で、登録の有無や手数料の体系、ガイドライン第3版への対応、不適切な買い手の情報共有の仕組みへの加盟の有無を調べられます。ただし登録は業務の許可ではなく、掲載内容は自己申告にもとづくため、説明と契約書でも確かめてください。

業界の自主規制団体である一般社団法人M&A支援機関協会は、2024年10月から「特定事業者リスト」を運用しています。M&Aの実行後、合意していた保証の解除が60営業日を過ぎても実現しない、分割払いの代金が期日を過ぎても支払われない、といった事由に当てはまった買い手の情報を、参加する支援機関や利用する金融機関、事業承継・引継ぎ支援センターなどで共有する仕組みで、登録は最低10年続きます。

このリストは一般に公開される名簿ではありません。依頼する仲介会社・FAに、買い手をどう調査するのか、情報共有の仕組みに参加しているのかを確かめましょう。ガイドラインは、これらを契約前に依頼者へ説明することを仲介者・FAに求めています。

買い手本人についても、登記や決算書、事業所の実在、買収資金の裏付け、過去のM&Aでのトラブルの有無などを、専門家の力を借りて確かめることが大切です。中小企業庁の参考資料も、売り手自身が、支援機関などから提供される情報を吟味し、財務状況などの観点から適切な相手かどうかを確かめる姿勢が求められるとしています。

困ったとき・迷ったときの相談先

「おかしい」と感じたら、一人で判断せず、早めに相談してください。すでに契約してしまった場合や、買い手と連絡が取れなくなった場合も、手遅れと決めつけずに動くことが大切です。どこに相談すればよいか分からないときは、当窓口にご連絡いただければ、お話を伺ったうえで状況に合う窓口をご案内します。

M&A支援機関登録制度の情報提供受付窓口については、登録された支援機関が、この窓口に相談したことだけを理由に秘密保持義務違反として不利益に扱わないことを、登録時に誓約しているとされています。主な相談先は次のとおりです。

  • 警察相談専用電話「#9110」:口座の売買を持ちかけられた、詐欺が疑われるなど、緊急ではない警察への相談(今まさに被害に遭っているなど緊急のときは110番)
  • 弁護士:契約書の確認、経営者保証、買い手とのトラブル(各地の弁護士会の法律相談や、日本弁護士連合会の中小企業向け窓口「ひまわりほっとダイヤル」など)
  • 事業承継・引継ぎ支援センター:国の委託事業として全都道府県に置かれた公的相談窓口。受けている提案や支援機関の助言について、セカンド・オピニオンを求められます
  • 取引のある金融機関:経営者保証の扱いや借り換えの可否
  • M&A支援機関登録制度の情報提供受付窓口:登録された仲介会社・FAの不適切な対応についての情報提供(紛争の解決や助言を行う窓口ではありません)

よくある質問

Q. 「わずかな金額で買う代わりに、借入と保証を引き受ける」と提案されました。

A. 中小企業庁は、経営者保証を引き受ける前提で低い譲渡額を示される提案にはとくに注意するよう呼びかけています。保証の解除や借り換えが、クロージングと同時に確実に行われる契約になっているかを弁護士に確認し、保証先の金融機関にも事前に相談してください。事業承継・引継ぎ支援センターでセカンド・オピニオンを受けることもできます。

Q. すでに会社を売ってしまい、買い手と連絡が取れません。

A. ガイドラインは、経営者保証が移行しないなどのトラブルが起きたら、早急に弁護士へ相談することを勧めています。保証先の金融機関にも状況を伝え、資金の持ち出しなど犯罪が疑われる場合は警察にも相談してください。仲介会社・FAが登録支援機関であれば、登録制度の情報提供受付窓口に情報を寄せることもできます。

Q. 仲介会社から紹介された買い手なら、心配はいりませんか?

A. 支援機関には買い手の調査が求められていますが、ガイドライン自身も、その確認には限界があり、買い手の信用を保証するレベルで行うのは難しい面があるとしています。調査の範囲と結果の説明を求め、最終契約の保証の条項や代金の支払い方法は、ご自身と弁護士の目でも確かめましょう。

参考にした公的な情報

※ 本記事は一般的な情報提供であり、個別の状況についての税務・法務・会計の判断ではありません。具体的な判断は、税理士・弁護士などの専門家や公的な窓口にご確認ください。 当窓口は、ご相談の内容に応じて専門家や公的な相談窓口をご案内・ご紹介します()。

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