先に結論
仲介会社やFAの手数料には一般的な法規制がなく、着手金・月額報酬・中間金・成功報酬の組み合わせや計算方法は依頼先ごとに異なります。成功報酬は「レーマン方式」が多いものの、何を基準額にするかと最低手数料の水準で支払額は大きく変わるため、契約前に書面で説明を受け、成約したときの総額の目安を確かめることが大切です。
この記事のポイント
手数料に「決まった料金表」はない
中小M&Aガイドライン(第3版)は、仲介者・FAの手数料には一般的な法規制がなく、どのような料金体系をとるかは各社次第だとしています。M&A専門業者そのものにも、許可制や免許制はとられていません。そのため、同じM&Aが成立しても、依頼先によって支払う金額は大きく異なりえます。
よく見られるのは、次の4種類の組み合わせです。すべてを請求する業者もあれば、成功報酬だけの「完全成功報酬型」の業者もあります。着手金などが後で成功報酬に充てられる(内金になる)かどうかや、交通費などの実費が別にかかるかどうかも確認しておきましょう。
- 着手金:主に仲介契約・FA契約を結ぶときに支払う
- 月額報酬(リテイナーフィー):契約期間中、毎月定額で支払う
- 中間金:基本合意のときなど、途中の節目で支払う
- 成功報酬:クロージングなど、案件が完了したときに支払う
成功報酬の計算:レーマン方式と「基準となる価額」
成功報酬の計算には「レーマン方式」がよく使われます。基準となる金額を階層に分け、階層ごとの料率を掛けて合計する方法で、ガイドラインは一例として「5億円以下の部分は5%、5億円超10億円以下の部分は4%、10億円超50億円以下の部分は3%……」という表を示しています。ただし階層や料率は業者によって異なり、レーマン方式を使わずに一律の料率や定額とする業者もあります。
料率以上に大きく効くのが、何を「基準となる価額」にするかです。ガイドラインは主な例として、譲渡額そのもの、譲渡額に負債を加えた「移動総資産額」、資産から負債を引いた「純資産額」を挙げています。移動総資産額を基準にすると、同じ譲渡額でも借入金の多い会社ほど手数料は高くなるため、料率の表だけでなく、自社の場合にいくら支払うことになるのかを金額で確かめることが重要です。
小さな案件ほど効いてくる「最低手数料」
売り手の規模が小さいと、基準額に料率を掛けても金額が小さくなるため、最低手数料を設けている仲介者・FAは多いとされています。ガイドラインの計算例では、譲渡額5,000万円の株式譲渡で、5%を掛けると税込275万円のところ、最低手数料1,000万円(税抜)が適用され、税込1,100万円を支払う計算になっています。
中小企業庁の注意喚起の資料にも、「成功報酬は売却代金の5%と聞いていたが、最低報酬金額が適用され、想定よりも高い手数料を払うことになった」という例が挙げられています。見積もりを比べるときは、料率ではなく「成約したら最終的にいくら払い、手元にいくら残るか」で比べましょう。
なお、ガイドラインの計算例は消費税を含めた税込の金額で示されています。見積もりが税抜か税込か、途中で払った着手金や中間金が成功報酬から差し引かれるかによっても、比べるべき金額は変わります。
仲介なら「相手方の手数料」も確認する
仲介者は通常、売り手と買い手の双方と契約し、双方から手数料を受け取ります。ガイドラインは、買い手が用意できる予算の中から「売り手への代金」と「仲介者への手数料」が決まる構造になっているため、相手方の手数料の額も売り手の利益に影響しうると説明しています。仲介者には、相手方から受け取る手数料の算定基準なども説明することが求められています。
ガイドラインは、仲介者は利益相反を防ぐ観点からDDを直接行うべきではないとしており、買い手が別の専門家にDDを依頼することもあります。その費用も買い手にとってはM&Aのコストになるため、最終的に売り手が受け取る代金に影響する場合があると説明されています。
また、買い手から追加の手数料を受け取って買い手に便宜を図る(不当に低い価格へ誘導するなど)行為や、リピーターの買い手を優遇する行為は、利益相反としてガイドラインで禁止され、仲介者の義務として仲介契約書に定めることとされています。仲介を選ぶ場合は、契約書にこうした定めがあるかも確かめましょう。
契約前に書面で確かめたいこと
手数料の額だけでなく、その手数料で何をしてもらえるのかも比べましょう。ガイドラインは仲介者・FAに、評価・相手探し・交渉などの工程ごとに提供する業務や、担当者の保有資格・経験年数・成約実績を説明するよう求めており、支援の質は担当者の経験や組織の体制にも左右されるとしています。
ガイドラインは仲介者・FAに対し、契約を結ぶ前に重要な事項を書面(メールでの送付を含む)で説明し、依頼者に十分な検討時間を与えるよう求めています。中小企業庁は、契約の際のチェックリストも公表しています。少なくとも次の点に書面で答えてもらってから契約すると、後の行き違いを防ぎやすくなります。
- 仲介かFAか(誰と契約し、誰から手数料を受け取るか)
- どの工程まで支援するか(評価・相手探し・交渉・DD・クロージングなど)
- 報酬率・基準となる価額・最低手数料・支払いのタイミング
- 手数料以外にかかる費用(実費など)
- 専任条項の範囲(他社への依頼やセカンド・オピニオンの可否)と契約期間(専任の場合は長くても6か月〜1年以内が目安)
- 直接交渉の制限が、紹介を受けた相手とのM&Aの交渉に限られ、契約終了までとなっているか
- テール条項の期間(長くても2〜3年以内が目安)と、対象が紹介を受けた相手に限られるか
- 中途解約の方法と、弁護士や支援センターへの相談が秘密保持の例外とされているか
国の登録制度と計算ツールで比べる
中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」のサイト(https://ma-shienkikan.go.jp)では、登録された仲介者・FAのデータベースで、所在地や支援の種類のほか、報酬率、基準額の種類、最低手数料、報酬の発生タイミングといった手数料の算定基準を調べられます。掲載内容は各社の自己申告にもとづくため、最終的には書面の説明と契約書で確かめてください。
同じサイトには、決算書の数字を入れると、代表的な4つの基準額ごとに成功報酬の目安を計算できる「手数料の簡易計算」ツールもあります。対象は黒字企業の株式譲渡で、着手金などを含まない参考値です。
インターネットのM&Aプラットフォームには、売り手は無料で登録できるものも相当数あります。ガイドラインの計算例でも、プラットフォームで成立した譲渡額2,000万円の株式譲渡について、売り手は手数料なし、買い手は成功報酬3%(最低手数料30万円・税抜)という料金体系が示されています。ただし、相手が見つかった後に別の専門家の支援を受ければ、その費用は別にかかります。
説明に納得できないときは、無料で相談できる事業承継・引継ぎ支援センターや士業にセカンド・オピニオンを求められます。ガイドラインは、手数料が業務に見合わないと感じる場合に、手数料の交渉や他の仲介者・FAへの依頼を検討することも選択肢として示しています。
補助金(事業承継・M&A補助金)の専門家活用枠
国の「事業承継・M&A補助金」には、M&Aにかかる専門家の費用の一部を補助する「専門家活用枠」があります。仲介者・FAの手数料が補助の対象になるのは、M&A支援機関登録制度に登録された支援機関に依頼した場合に限られます。
2026年9月に公募要領が公開された16次公募では、売り手向けの類型の補助率は原則1/2以内(直近の決算で営業利益か経常利益が赤字の場合などは2/3以内)、補助上限額は600万円とされ、小規模な売り手向けの類型(補助率2/3以内、上限450万円)も設けられています。対象は交付決定の後に契約・発注し、補助事業期間中に支払いまで終えた経費とされているため、仲介者・FAと契約する前に、公式サイトで最新の公募要領を確かめましょう。
よくある質問
Q. 着手金なしの「完全成功報酬型」なら安心ですか?
A. 着手金がかからなければ、成約しなかったときの負担は抑えられます。ただ、成功報酬の基準額や最低手数料しだいで、成約時の支払額がかえって大きくなることもあります。着手金の有無だけでなく、想定される譲渡額で総額を試算して比べることが大切です。
Q. 手数料の値下げを交渉してもよいのでしょうか?
A. ガイドラインは、手数料や業務内容を理解したうえで見合っていないと感じ、納得できない場合には、仲介者・FAと業務や手数料について交渉したり、他の仲介者・FAへの依頼を検討したりすることが考えられるとしています。交渉の前に、登録制度のデータベースで他社の手数料体系を調べておくと比べやすくなります。
Q. M&Aが成立しなかった場合、費用はかかりますか?
A. 成功報酬は通常、案件が完了しなければ発生しません。一方、着手金は契約時、月額報酬は毎月発生する手数料なので、成約しなくても支払いが必要になるのが通常です。また、契約が終わった後でも、紹介を受けた相手と一定期間内に成約するとテール条項によって手数料がかかることがあるため、契約前に確認しておきましょう。
参考にした公的な情報
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」 https://www.meti.go.jp/files/900016275.pdf
- 中小企業庁「(参考資料6)仲介契約・FA契約締結時のチェックリスト」 https://www.meti.go.jp/files/900016265.pdf
- 中小企業庁(M&A支援機関登録制度事務局)「M&A支援機関登録制度 登録支援機関データベース」 https://ma-shienkikan.go.jp/search-description
- 中小企業庁(M&A支援機関登録制度事務局)「手数料の簡易計算」 https://ma-shienkikan.go.jp/fee-calculation
- 中小企業庁財務課・M&A支援機関登録制度事務局「昨今の中小M&A市場における動向を踏まえた周知・注意喚起について」 https://ma-shienkikan.go.jp/documents/%E3%80%90%E4%B8%AD%E5%B0%8F%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%80%91%E6%98%A8%E4%BB%8A%E3%81%AE%E4%B8%AD%E5%B0%8FM%EF%BC%86A%E5%B8%82%E5%A0%B4%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%8B%95%E5%90%91%E3%82%92%E8%B8%8F%E3%81%BE%E3%81%88%E3%81%9F%E5%91%A8%E7%9F%A5%E3%83%BB%E6%B3%A8%E6%84%8F%E5%96%9A%E8%B5%B7%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6_241030.pdf
- 中小企業庁(事業承継・M&A補助金事務局)「事業承継・M&A補助金(14次公募〜)」 https://shoukei-mahojokin.go.jp/r7h/
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