先に結論
債務超過の会社でも、事業譲渡や会社分割で価値のある事業を別の会社に移し、元の会社に残った負債を特別清算や私的整理などで整理する方法(いわゆる第二会社方式)が使われることがあります。ただし、対価が不当に低いなど債権者を害する形で行うと取消しや請求の対象になり得るため、弁護士を中心に、債権者の理解を得ながら進めることが前提です。
この記事のポイント
債務超過だと、なぜ株式譲渡が難しくなるのか
債務超過とは、負債が資産を上回っている状態です。中小M&Aガイドラインでは、帳簿上の数字ではなく、資産と負債を時価で評価し直した実態の貸借対照表で判断するものとしています。
株式譲渡では会社そのものが相手の傘下に入るため、借入も、取引上の債務も、帳簿に表れない債務も、すべて会社に残ります。債務超過の会社では株式に値がつきにくく、相手には負債ごと引き受けるだけの資金力や、金融機関との借換え・保証の調整が求められるため、株式譲渡だけで成立させるのは簡単ではありません。
そこで使われるのが、価値のある事業を別の会社に移し、元の会社に残った負債を別の手続きで整理する方法です。ガイドラインは、事業再生の局面では、別会社(第二会社)に事業を移してそこで再建を目指す「第二会社方式」が選ばれることが多いと説明しています。
株式譲渡・事業譲渡・会社分割の違い
中小M&Aの実務では株式譲渡か事業譲渡が選ばれることが多いとされますが、会社法の組織再編である会社分割が使われることもあります。株式譲渡は、株主が株式を譲り渡すだけなので手続きは比較的シンプルな反面、未払残業代のような帳簿外の債務や、将来の損害賠償のような偶発的な債務のリスクも引き継がれ、相手の調査は詳しくなる傾向があります。
事業譲渡は、移す財産や契約を選べるため、帳簿外の債務などを切り離しやすい方法です。その代わり、不動産の登記や許認可の取得、取引先ごとの契約の切替え(契約上の地位の移転には相手方の承諾が必要)など、個別の手続きが欠かせません。従業員の雇用を移すにも本人の承諾が必要で(民法第625条)、事業の全部や重要な一部を譲る場合には、原則として株主総会の特別決議による承認も求められます(会社法第467条・第309条)。
会社分割は、事業に関する権利義務を、別の会社にまとめて引き継がせる手続きです。分割後に元の会社へ請求できなくなる債権者には、官報公告や個別の催告で異議を述べる機会を設ける手続き(会社法第789条など)があり、従業員については、労働契約承継法に基づく通知や異議申出の手続きが定められています。
事業譲渡
- 移す財産・契約を個別に選ぶ
- 取引先・従業員の承諾を得て移す
- 許認可は取り直しが必要になることがある
- 帳簿外の債務を切り離しやすい
会社分割
- 事業の権利義務をまとめて引き継ぐ
- 債権者が異議を述べる手続きがある
- 従業員には労働契約承継法の手続きがある
- 会社法の組織再編の手続きに沿って進める
事業を移した後、元の会社はどう整理するのか
事業譲渡や会社分割で事業を移しても、移さなかった負債は元の会社に残ります。受け取った対価を返済に充てたうえで、なお返しきれない負債をどう整理するかは、債権者の顔ぶれや資産の状況、経営者保証の有無などによって変わるため、弁護士が中心になって判断します。
代表的な手続きの一つが特別清算です。解散して清算中の株式会社について、清算の遂行に著しい支障がある場合や債務超過の疑いがある場合に、裁判所の命令で開始され、その監督のもとで行われる清算手続きです(会社法第510条)。このほか、裁判所が選任した破産管財人が財産を換価して債権者に配当する破産手続きもあります。
裁判所の手続きによらず、金融機関との合意で返済猶予や債務の減免を受ける私的整理もあり、中小企業活性化協議会の支援や、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(2022年策定、2026年3月一部改定)に基づく手続きなど、第三者が関わる枠組みが用意されています。中小M&Aガイドラインは、協議会の関与のもとで事業譲渡などを行い、その後に元の会社を特別清算で整理したり、特定調停を利用したりする例が見られると紹介しています。
私的整理は、官報などで公表されないため、事業や信用の傷みを抑えやすいとされています。その一方で、たとえば事業再生等ガイドラインの手続きでは、対象となる債権者全員の同意が得られないことが明らかになると手続きは終了するため、早い段階から情報を誠実に開示し、説明を重ねることが欠かせません。
債権者を害する譲渡とされないために
負債を元の会社に残して事業だけを移す方法は、やり方を誤ると、残された債権者を害する行為として扱われます。民法は、債務者が債権者を害することを知ってした行為について、債権者が裁判所に取消しを請求できると定めています(第424条)。
会社法にも、譲渡する会社が残る債権者を害することを知って事業を譲渡した場合、その債権者は、譲り受けた会社に対して、承継した財産の価額を限度に債務の履行を請求できるという規定があります(第23条の2。譲り受けた会社がその事実を知らなかった場合を除く)。会社分割にも同じ趣旨の規定があり(第759条第4項など)、また、譲り受けた会社が元の会社の商号を使い続ける場合には、譲り受けた後に遅滞なく責任を負わない旨の登記や通知をしたときを除いて、元の会社の事業の債務を弁済する責任を負います(第22条)。
中小M&Aガイドラインは、債務超過の会社が事業譲渡などを行う際に対価が不当に低いと、債権者による詐害行為取消権や、民事再生手続での否認権の行使などのリスクがあるとし、少なくとも破産した場合の価値(清算価値)を相当程度上回る金額での譲渡が求められると述べています。そのうえで、可能な限り事前に説明を尽くし、債権者などの了承を得ておくことが望ましいとしています。
- 譲渡の対価が妥当であることを、第三者の評価などで説明できるか
- 元の会社に残る債権者への説明と、返済の見通しを示しているか
- 譲渡の前後に、資産の移動や一部の債権者だけへの返済をしていないか
- 商号を引き継ぐ場合に、登記や通知の手当てを確認したか
進め方の一例
実際の順序は会社ごとに異なりますが、第二会社方式で事業を残す場合のおおまかな流れは次のとおりです。資金繰りが続くうちに着手できるかどうかで、取れる手段は大きく変わります。
ガイドラインは、債務超過の会社は資金繰りに余裕がないことが多いため、できれば日ごとの資金繰りまで把握して、資金が尽きる時期を確認する必要があるとしています。仕入先への支払いや給与に未払いが出始めると事業や信用が傷んでいくおそれがあるため、その前に相談を始めることが大切です。
私的整理の中で返済の一時停止を求める場合も、事業再生等ガイドラインの手続きでは、原則として書面により、対象となるすべての債権者に同時に行うことなどが要件とされています。一部の金融機関とだけ先に話を進めるのではなく、全体を見渡して順序を組み立てることが大切です。
- 1資金繰り表と、借入・保証・担保・未払いの一覧をつくる
- 2弁護士や中小企業活性化協議会に相談し、手続きの方向性を決める
- 3金融機関などの債権者に説明し、返済の一時停止や猶予を相談する
- 4譲り受け先(スポンサー)を選び、事業の価値を評価してもらう
- 5事業譲渡・会社分割の契約と、株主総会・債権者・従業員への手続きを行う
- 6元の会社を特別清算や私的整理などで整理し、保証債務も整理する
見落としやすい論点:保証・税金・許認可
経営者が会社の借入を連帯保証している場合、元の会社を整理しても保証債務は残ります。「経営者保証に関するガイドライン」を使えば、会社の私的整理や法的整理とあわせて保証債務を整理し、一定期間の生計費や華美でない自宅などを手元に残せる可能性があります(保証の扱いは関連記事で詳しく解説しています)。
債権者から債務の免除を受けると、会社に債務免除益が生じて課税の問題が出ることがあり、欠損金などで相殺できるかどうかが重要になります。また、事業譲渡では許認可を取り直す必要がある場合があり、扱いは業種によって異なります。税金は税理士、許認可は所管の役所や行政書士などの専門家に、早めに確認してください。
よくある質問
Q. 事業だけを移せば、元の会社の借金は返さなくて済むのですか?
A. そうではありません。第二会社方式は、債権者の同意や裁判所の手続きのもとで、事業の価値を守りながら負債を公正に整理するための方法です。債権者を害する形で事業だけを移すと、取消しや譲り受けた会社への請求の対象になり得ます。
Q. スポンサー(譲り受け先)が見つからない場合は、どうなりますか?
A. スポンサー支援の見込みがない場合、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」は早期に事業を廃止して清算することを検討するとしており、そのための「廃業型私的整理」の手続きも定めています。計画的な廃業によって従業員に転職の機会を確保できる可能性があり、経営者も保証の整理を経て再スタートできる可能性があることなどが、この手続きを使う前提として挙げられています。
Q. 税金や社会保険料の滞納も、私的整理で整理できますか?
A. 「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」の私的整理は、主に金融機関からの借入などの金融債務を対象とする手続きです。税金や社会保険料の滞納は別に、税務署や年金事務所へ早めに相談する必要があります(滞納がある場合の考え方は、滞納に関する記事で解説しています)。
参考にした公的な情報
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html
- e-Gov法令検索「会社法(第22条・第23条の2・第309条・第467条・第510条・第759条・第789条ほか)」 https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- e-Gov法令検索「民法(第424条 詐害行為取消請求、第539条の2、第625条ほか)」 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 裁判所「破産・再生(破産手続・民事再生・会社更生・特別清算)」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/hasan/index.html
- 厚生労働省「企業組織の再編(会社分割等)に伴う労使関係(労働契約の承継等)について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/saihen/index.html
- 全国銀行協会(中小企業の事業再生等に関する研究会)「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」 https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/sme-guideline/
※ 本記事は一般的な情報提供であり、個別の状況についての税務・法務・会計の判断ではありません。具体的な判断は、税理士・弁護士などの専門家や公的な窓口にご確認ください。 当窓口は、ご相談の内容に応じて専門家や公的な相談窓口をご案内・ご紹介します(ご相談の仕組みと紹介の方針)。