先に結論
赤字の会社を譲り受けると、顧客・人材・許認可・設備などをまとめて得られ、価格が抑えられることもあります。一方で、簿外債務や税金・社会保険料の滞納、未払残業代、保証やリースの負担を引き継ぐおそれがあるため、専門家による調査で赤字の原因と負債の全体像を確かめてから判断することが欠かせません。
この記事のポイント
赤字の会社を譲り受けるメリット
決算が赤字でも、会社の中身まで空っぽとは限りません。中小M&Aガイドラインも、事業の評価は収支や財務の状況だけで決まるものではなく、取引先とのつながり、働く人、地元での信用、許認可といった要素も評価されうるとしています。一から揃えれば時間も費用もかかる経営資源を、まとめて引き継げる可能性がある点は大きなメリットです。
価格の面でも、利益が出ていないことは評価に反映されます。ガイドラインの参考資料は、中小M&Aでは純資産をもとにする方法や、利益水準をもとにする方法で株式価値を算定することが多く、純資産に数年分の利益を加えた金額で譲渡額を交渉する場合もあると説明しています。利益が出ていない、あるいは純資産が小さい会社は、その分だけ価格が抑えられることがあります。
自社の販路やノウハウと組み合わせることで、赤字の原因を解消できる見込みがある同業者や関連事業者にとっては、検討する価値のある選択肢になりえます。ただし、安く買えることと、引き継いだ後に利益を出せることは別の話です。
赤字の会社に潜みやすいリスク
株式を譲り受けると、会社そのものは変わらないため、会社が抱える債務や契約、紛争もそのまま引き継ぐことになります。ガイドラインは、株式譲渡では未払残業代のように貸借対照表に表れない簿外債務や、紛争に関する損害賠償のように将来発生しうる偶発債務のリスクが比較的高くなりやすいとしています。
資金繰りが苦しい会社では、税金や社会保険料の滞納が起きていることもあります。会社の滞納は、株主が替わっても会社の債務として残ります。会社が第三者の借入の保証人になっている、リース料の支払いが長く残っている、といった負担も、決算書を眺めるだけでは分かりにくいものです。
許認可にも注意が必要です。株式譲渡なら許認可の再取得は原則として不要ですが、経営者や担当者が替わった後も許認可の要件を満たし続けられるかは、法務の調査で確かめておきたい点です。事業譲渡なら許認可は原則として取り直しになるため、引き継いだ日からすぐに営業できるとは限りません。
得られる可能性があるもの
- 顧客・取引先との関係
- 経験のある従業員
- 許認可・設備・店舗
- 抑えられた取得価格
引き継ぐおそれがあるもの
- 未払残業代などの簿外債務
- 税金・社会保険料の滞納
- 保証・リースなどの負担
- 赤字を生んでいる構造そのもの
赤字の原因と負債の全体像を調べる
こうしたリスクを確かめるのがデュー・ディリジェンス(DD)です。ガイドラインは、DDによって客観的な資料に基づいた検討ができ、そもそもM&Aを実行すべきかを考え、実行する場合も譲渡額や表明保証、補償といった契約条件を調整することで、成立後のトラブルを防げるとしています。多額の簿外債務が見つかれば、予定していた株式譲渡をやめて事業譲渡に変える判断が必要になることもあります。
赤字の会社で特に確かめたいのは、赤字の原因です。取引先の倒産や一度きりの費用といった一時的な要因なのか、価格競争や市場の縮小、特定の取引先への依存など事業の構造に根ざしたものなのかで、立て直しの難しさはまったく違います。ガイドラインは簿価と時価のずれにも触れ、帳簿の上では債務超過でも実態は資産超過という場合があるとしています。買う側としては、その逆、つまり在庫や売掛金などが実態より大きく計上されていないかも確かめどころです。
法務面の調査は、株式や会社の組織、重要な契約、資産と負債、人事・労務、訴訟や紛争、許認可やコンプライアンスといった観点から行うケースが多いとされています。財務・税務は公認会計士や税理士、法務は弁護士と、自分の側で依頼する専門家を決めておきましょう。
- 直近数期の決算書・申告書と、赤字の原因の説明
- 借入・保証・リース・担保の一覧と契約書
- 税金・社会保険料の納付状況(滞納や分割納付の有無)
- 未払残業代・未払賃金など帳簿に出ない負債
- 係争中の案件や、請求を受けている事柄
- 主要取引先・賃貸借契約の継続条件
- 許認可の名義と、引継ぎ後も要件を満たせるか
- 預金の動きと帳簿の記録が一致しているか
違法な取引に巻き込まれないために
会社の売買という形をとっていても、実際の目的が事業ではなく、法人名義の口座や許認可の名義にある取引には関わらないでください。
犯罪収益移転防止法は、預貯金通帳やキャッシュカード、振込みや引出しに必要なIDやパスワードなど(預貯金通帳等)を、他人になりすまして使う目的で、あるいは正当な理由がないのに有償で、譲り受けたり譲り渡したりする行為を処罰の対象とし、3年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金(または両方)を定めています。こうした行為を勧誘したり、広告などで誘ったりすることも同じく処罰の対象です。警察庁によると、令和8年(2026年)7月10日施行の改正で、預貯金通帳の不正譲渡等に対する罰則が引き上げられました。
株式を譲り受ける形をとっていても、実態が口座を使うこと、使わせることにある取引は、この法律に触れるおそれがあります。「口座付きの会社」「通帳やカードも一緒に渡す」といった言葉が出てくる話には応じず、判断に迷うときは弁護士や警察に相談してください。
許認可も同じです。許認可は、申請した人や会社が要件を満たすことを確かめて与えられるもので、たとえば宅地建物取引業法は、宅建業者が自分の名義で他人に宅建業を営ませること(名義貸し)を禁じています。許可を持つ会社を手に入れて、実際には要件を満たさない別の人が事業を行うような使い方は、名義貸しなどに当たるおそれがあります。
借金の付け替えにも注意が必要です。会社法は、事業を譲り渡す会社が、引き継がれずに残る債務の債権者に損害を与えると分かっていながら事業を移した場合、残された債権者は、譲り受けた会社に対しても、引き継いだ財産の価額の範囲で支払いを求められると定めています(譲り受けた会社がそのことを知らなかった場合を除きます)。借金を置き去りにして事業だけを移すような計画に手を貸すと、譲り受けた側も責任を問われかねません。
繰越欠損金を目当てにしない
赤字の会社には、過去の赤字(欠損金)が繰り越されていることがあります。国税庁によると、青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金は、その後も連続して確定申告書を提出しているなどの要件のもとで、10年間(平成30年4月1日前に開始した事業年度の分は9年間)にわたって、その後の所得から差し引くことができます。
ただし制限もあります。他の者に株式の50%超を保有されるなどの関係(特定支配関係)になった、欠損金のある法人が、その日から5年以内に、それまでの事業をすべてやめたうえで、その事業規模のおおむね5倍を超える資金の借入れを行うなど、一定の事由に当たると、それまでの欠損金は繰越控除できなくなります。ほかにも要件や制限があり、使えるかどうかは会社ごとの事情で変わります。
欠損金は、事業を立て直して利益が出たときに結果として意味をもつことがあるものです。それ自体を目的に会社を買うことはおすすめしません。税務上の扱いは、税理士に確認したうえで判断してください。
判断に迷ったときの相談先
赤字の会社の譲受けは、財務・税務・法務のどれか一つでも見落とすと、引き継いだ後の負担が大きくなりがちです。調査と契約は、公認会計士・税理士・弁護士など、譲り受ける側の立場で助言してくれる専門家に依頼しましょう。ガイドラインは、契約内容に不安がある場合は、調印前に別の支援機関の意見(セカンド・オピニオン)を求めることも有効だとしています。
仲介会社やFAを使う場合は、国の「M&A支援機関登録制度」に登録されているかをデータベースで確認できます。登録は中小M&Aガイドラインの遵守を宣言した事業者であることを示すもので、個々の案件の条件の良し悪しまでを保証するものではない点にも留意してください。相手の会社が事業再生の途中にある場合は、事業再生に詳しい弁護士などの専門家にも早めに相談しておきましょう。
よくある質問
Q. 株式を安く買えれば、得だと考えてよいですか?
A. 株式の価格が低くても、会社の借入や滞納、簿外債務は会社に残るため、実際の負担は株式の代金に、引き継ぐ負債や立て直しの費用を加えて考える必要があります。前の経営者の保証を外すために借り換えの資金が要ることもあり、総額で判断することが大切です。
Q. 事業譲渡にすれば、売り手の借金や滞納は引き継がずに済みますか?
A. 事業譲渡は引き継ぐ財産や債務を選べるため、株式譲渡よりリスクを遮断しやすい方法です。ただし、売り手が債権者を害することを知って事業を譲渡した場合には、譲り受けた側も一定の範囲で支払いを求められることがあります(会社法の詐害事業譲渡の規定)。許認可の取り直しも必要になるため、方法は弁護士と相談して選びましょう。
Q. 赤字の会社を買うと、税金が安くなりますか?
A. 欠損金の繰越控除には要件と制限があり、買収後の事業の変え方などによっては使えなくなることもあります。節税を目的にした買収はおすすめしません。税務上の扱いは税理士に確認してください。
参考にした公的な情報
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html
- 国税庁「No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5762.htm
- e-Gov法令検索(デジタル庁)「犯罪による収益の移転防止に関する法律(第26条)」 https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000022
- 警察庁「令和8年犯罪収益移転防止法の改正について」 https://www.npa.go.jp/bureau/sosikihanzai/hansyu/houritukaisei.html
- e-Gov法令検索(デジタル庁)「会社法(第23条の2 詐害事業譲渡)」 https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- e-Gov法令検索(デジタル庁)「宅地建物取引業法(第13条 名義貸しの禁止)」 https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC1000000176
※ 本記事は一般的な情報提供であり、個別の状況についての税務・法務・会計の判断ではありません。具体的な判断は、税理士・弁護士などの専門家や公的な窓口にご確認ください。 当窓口は、ご相談の内容に応じて専門家や公的な相談窓口をご案内・ご紹介します(ご相談の仕組みと紹介の方針)。