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負債・債務超過での売却

会社を売れば個人保証は外れる?経営者保証の扱いとM&Aの注意点

株式を譲って社長を退いても、金融機関と結んだ保証契約はそれとは別に残ります。「会社は手放したのに保証だけが残った」という事態を防ぐために、知っておきたい仕組みと進め方をまとめました。

先に結論

会社を売却しても経営者保証は自動では外れず、金融機関の判断で解除されるか、買い手側に移されるまで残ります。中小M&Aガイドライン(第3版)は、保証の解除・移行を買い手の義務として最終契約に明記し、クロージング(取引の実行)の条件にすることや、実行されなかった場合の契約解除・補償の条項を盛り込むことを検討するよう求めています。

この記事のポイント

保証契約は会社の売買とは別株主や代表者が替わっても、金融機関との保証契約は当然には終わりません。
金融機関の対応には目安がある経営者保証に関するガイドラインと事業承継時の特則が、保証の見直しの考え方を示しています。
最終契約で「義務・条件・補償」を定める中小M&Aガイドライン第3版が示す、保証を確実に外すための考え方です。
保証を外さない買い手に注意2024年に中小企業庁が注意喚起し、業界でも情報共有の仕組みが動いています。

なぜ会社を売っても保証が残るのか

経営者保証は、会社の借入について、経営者個人が金融機関と結ぶ保証契約です。株式を売って代表者を退いても、それだけで保証契約が終わるわけではなく、金融機関が解除に応じるか、買い手側の保証などに切り替えられるまで、元の経営者の保証は残ります。

中小M&Aガイドライン(第3版)も、保証の解除や移行は最終的には金融機関の判断によること、正式な手続きはクロージング後に登記上の代表者が変わってから行う必要があることを指摘しています。そのうえで、買い手の信用力が著しく低い場合には円滑に解除・移行できないリスクがあり、買い手に解除・移行の意思が薄い場合には、金融機関への相談そのものが滞るリスクもあるとしています。

経営者保証に関するガイドラインと、事業承継時の特則

「経営者保証に関するガイドライン」は、日本商工会議所と全国銀行協会が設置した研究会が2013年12月に策定し、2014年2月から適用されているルールです。法的な拘束力はありませんが、会社、経営者、金融機関が自発的に尊重し、守ることが期待されています。

ガイドラインは、保証を求めない融資を金融機関が検討する際の要件として、次のような状態を挙げています。保証の解除を相談するときも、これらにどこまで近づいているかが話し合いの出発点になります。

2019年12月には「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」が策定され、2020年4月から適用されています。特則は金融機関に対し、前経営者と後継者の双方から二重に保証を取ることを原則として行わないこと、後継者に保証を当然に引き継がせず必要性を慎重に判断すること、実質的な経営権を持たなくなった前経営者の保証は解除に向けて適切に見直すことを求めています。保証が必要と判断する場合には、何が足りないのか、どう改善すれば解除の可能性が高まるのかを、具体的に説明することも求められています。

  • 会社と経営者個人の資産・経理がはっきり分かれている
  • 会社と経営者の間のお金のやりとりが、社会通念上適切な範囲に収まっている
  • 会社の資産や収益力だけで、借入を返せると判断できる
  • 会社から金融機関へ、財務情報が適時・適切に提供されている

M&Aで保証を外す・移すための道筋

中小M&Aガイドラインは、保証の扱いについて大きく二つの道を示しています。一つは、M&Aを進める前に、会社と個人のお金の区分けや財務の改善、情報開示に取り組み、自社の力で保証の解除を金融機関に相談する方法で、この取組みには弁護士への相談や、中小企業活性化協議会の活用も有用とされています。

もう一つは、買い手の信用力を踏まえて、保証を解除してもらうか、買い手側の保証などに移してもらう方法です。より確実な手段として、クロージングの時点で保証の対象になっている借入を買い手の資金で返済し、買い手側で別に借り換えてもらう方法も挙げられています。

どの道を選ぶ場合も、支援を受けている仲介会社などに加えて、弁護士や事業承継・引継ぎ支援センターに相談することが考えられ、弁護士には金融機関との調整といった具体的な支援も相談できます。秘密保持契約を結んだうえで、買い手と一緒に金融機関へ事前相談する方法もありますが、相談後も扱いが確定しない可能性や、M&Aが成立しなかったときの情報の扱いには注意が必要です。

最終契約で決めておきたいこと

第3版は、保証の解除や買い手側への移行を想定する場合には、最終契約(株式譲渡契約など)でその扱いを明確に位置づけることを検討すべきだとしています。具体的には、次のような定め方が示されています。

また、弁護士や金融機関に相談できるよう、相談先を秘密保持条項の対象から外しておくことも求められています。ガイドラインは、売り手からこうした相談の申し出があった場合、買い手はそれを拒むべきではないとしています。

仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)の支援は、基本的にクロージングの時点で終わります。クロージング後に保証が移らないといったトラブルが起きたときの交渉や紛争の解決は、弁護士でなければ扱えない業務にあたる可能性があるため、契約の文言の段階から弁護士に確認してもらうことをおすすめします。

  • 保証の解除・移行を、買い手の義務として明記する
  • 保証の解除・移行を、クロージングの条件として設定する
  • 最終契約後・クロージング前に、金融機関から組織としての意向表明を得る
  • クロージング日に、代表者の変更登記と保証の手続きを同時に行う
  • 解除・移行がされなかった場合に備え、契約解除や補償の条項を置く

保証を外さないまま資金を移す買い手への備え

2024年5月、中小企業庁は、売り手の経営者保証を引き受けないまま売り手の現預金などを移し、支払いに問題を生じさせて倒産に至らせる行為を繰り返した譲り受け側の存在が報道で指摘されているとして、注意喚起を行いました。特に、保証の引受けを前提に低い譲渡額を提示された場合には注意し、仲介会社などへの相談に加えて、弁護士などの士業専門家や事業承継・引継ぎ支援センターにセカンドオピニオンを求めることも検討するよう呼びかけています。

中小企業庁のチラシでは、クロージング後に何度求めても保証が移されず、会社の現預金が回収されたうえ必要な事業資金も送られずに会社が倒産し、保証が残っていた元の経営者が個人破産に至った事例が紹介されています。譲渡代金の分割払いや退職慰労金の後払いが、約束の期日を過ぎても支払われない事例も挙げられています。

業界団体の一般社団法人M&A支援機関協会は、2024年10月から、保証の未解除や対価の不払いなど、最終契約を守らない譲り受け側の情報を共有する「特定事業者リスト」を運用しています。2025年4月には中小企業庁の示した情報共有の仕組みに沿って改訂され、最終契約で合意した保証の解除が取引の実行日から60営業日を過ぎても行われない場合などが登録事由とされ、登録は最低10年続きます。登録情報は、制度に参加するM&A支援機関や、事業承継・引継ぎ支援センターなどの利用者が取引の判断に使う仕組みです。

第3版は、仲介会社やFAに対し、契約を結ぶ前に、こうした情報共有の仕組みに参加しているかどうかを依頼者に説明するよう求めています。相手の財務状況の確認とあわせて、依頼先に参加の有無を尋ねておくことも、身を守る手がかりの一つになります。

売却しない場合の保証の整理と、相談先

会社を売らずに廃業や清算を選ぶ場合も、保証は残ります。ただし、会社が破産や特別清算などの法的な手続き、あるいは中小企業活性化協議会などが関わる私的整理を行っているときは、一定の要件を満たせば、ガイドラインに基づく保証債務の整理を金融機関に申し出ることができます。整理が成立すれば、一定期間の生計費や華美でない自宅などを手元に残せる可能性があり、整理を行った事実は信用情報機関に登録されないこととされています。

2022年3月に公表された「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」(2023年11月改定)は、会社が廃業しても保証人は破産手続きを回避し得ることを周知するとともに、廃業の手続きに早く着手するほど、手元に残せる資産が増える可能性があることを明確にしています。保証が心配で廃業の決断を先延ばしにしている場合こそ、早めに専門家へ相談する意味があります。

相談先としては、弁護士(日本弁護士連合会などの中小企業向け予約窓口「ひまわりほっとダイヤル」もあります)、事業承継・引継ぎ支援センター、中小企業活性化協議会があります。金融庁も2026年5月に「M&A・事業承継時における経営者保証情報ネットワーク」を開設し、保証の説明に納得がいかないといった経営者や後継者の相談を、相談シートで受け付けています(個別のあっせんや保証解除を約束するものではありません)。どこに何を相談すればよいか迷うときは、当窓口でも一緒に整理できます。

よくある質問

Q. 金融機関に保証の解除を申し入れてもよいのでしょうか?

A. 申し入れることはできます。経営者保証に関するガイドラインは、会社の経営が改善したことなどを理由に保証の解除の申入れがあった場合、金融機関が保証の必要性を改めて真摯かつ柔軟に検討し、その結果を丁寧かつ具体的に説明するよう定めています。申し入れる前に、ガイドラインの要件に照らして自社の状況を整理しておくと、話し合いを進めやすくなります。

Q. 買い手側の社長が、新たに保証人になることはありますか?

A. あり得ます。ただし特則は、後継者に保証を当然に引き継がせるのではなく、必要性を改めて検討し、事業承継への影響も考慮して慎重に判断するよう金融機関に求めています。買い手の信用力によって、借換えや保証なしでの取引継続など扱いが分かれるため、事前に金融機関の意向を確かめておくことが大切です。

Q. 売却後に、保証が外れていないことに気づいたら?

A. まず最終契約で、買い手の義務や期限、契約解除・補償の定めがどうなっているかを確認し、早めに弁護士へ相談してください。仲介会社などの対応に不適切な点があった場合は、中小企業庁のM&A支援機関登録制度の「情報提供受付窓口」に情報を寄せることもできます(紛争の解決や個別の助言を行う窓口ではありません)。

参考にした公的な情報

※ 本記事は一般的な情報提供であり、個別の状況についての税務・法務・会計の判断ではありません。具体的な判断は、税理士・弁護士などの専門家や公的な窓口にご確認ください。 当窓口は、ご相談の内容に応じて専門家や公的な相談窓口をご案内・ご紹介します()。

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