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M&Aの基礎知識と注意点

中小企業M&Aの流れ|相談から成約・引継ぎまでの10ステップと注意点

M&Aは、相手が見つかればすぐに終わるものではありません。どんな順番で何を決めていくのかを先に知っておくと、焦らずに一つずつ判断できます。

先に結論

中小企業のM&Aは、一般に「相談・意思決定→支援機関の選定と契約→資料の準備と企業評価→相手探し→面談・交渉→基本合意→デューデリジェンス→最終契約→クロージング→引継ぎ」の順に進みます。希望する相手とのマッチングだけで数か月〜1年程度かかることもあり、最終契約を結んだ後も、代金の受け取りや経営者保証の扱い、引継ぎが終わるまでは気を抜けません。

この記事のポイント

流れは10のステップ中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」が示す一般的な手順に沿って進むことが多く、小規模な案件では簡略化されることもあります。
最初の相談は決断の前でよい直近3年分の決算書や申告書などがあれば相談を始められ、売るかどうかは選択肢を知ってから決められます。
書面の中身が結果を左右する支援機関との契約、基本合意、最終契約のそれぞれで、手数料・保証・支払条件などを書面で確かめます。
成約後の引継ぎまでが一続きクロージングの後も、取引先への報告や名義変更、保証の解除などの作業が続きます。

M&Aの全体像(10のステップ)

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」は、中小企業のM&Aの一般的な手順として、意思決定、仲介者・FA(ファイナンシャル・アドバイザー)の選定と契約、企業価値の評価、相手探し(マッチング)、交渉、基本合意、デュー・ディリジェンス(DD)、最終契約、クロージング、クロージング後の引継ぎという流れを示しています。ここでは、売り手の目線でこれを10のステップに整理しました。

ガイドラインは、事業規模が特に小さい場合には、より簡易な形で進めることが現実的なケースも多いとしています。すべての手順を同じ重さで踏む必要はありませんが、いまどの段階で何を決めているのかを意識しておくと、後で「そんな約束はしていなかった」という行き違いを防ぎやすくなります。

  1. 1相談・意思決定:現状と希望を整理し、M&Aを検討するかを決める
  2. 2支援機関の選定と契約:仲介会社・FAなどを比べ、契約内容を確かめて依頼する
  3. 3資料の準備と企業評価:決算書などをそろえ、会社の価値の目安をつかむ
  4. 4相手探し(マッチング):社名を伏せた概要で打診し、関心を持った相手と秘密保持契約を結ぶ
  5. 5面談・交渉:経営者同士で会い、条件をすり合わせる
  6. 6基本合意:予定する価格や進め方など、大枠を書面にする
  7. 7デュー・ディリジェンス(DD):買い手が財務・法務などの実態を調べる
  8. 8最終契約:価格・支払い方法・保証の扱いなどを確定させる
  9. 9クロージング:株式などの引き渡しと代金の受け取り
  10. 10引継ぎ(PMI):取引先への報告や名義変更、業務の引継ぎを進める

相談と意思決定(ステップ1)

ガイドラインは、経営者がまず行うべきことは身近な支援機関への相談だとしています。相談先には、顧問税理士などの士業、商工会・商工会議所、取引のある金融機関、M&A専門業者のほか、国が設置する事業承継・引継ぎ支援センターや日本政策金融公庫が挙げられており、「意思決定がまだ済んでいないからこそ相談することが必要」とも述べています。どこに相談するか決めかねている段階なら、当窓口でお話を伺い、状況に合う専門家や公的窓口をご案内することもできます。

最初の相談では、直近3年分の税務申告書・決算書・勘定科目内訳明細書の写しがあれば十分で、細かな資料は支援機関の指示を受けてから準備すれば足りるとされています。自分にとって不利な情報ほど先に伝えておくと、支援機関も早い段階で対応策を考えやすくなります。

あわせて、親族や社内に後継者候補がいないかを確かめ、引退後の過ごし方や、代金・従業員の雇用など譲れない条件の優先順位を考えておくと、意思決定がしやすくなります。ガイドラインは、相手があることなので希望がそのまま通るとは限らないものの、譲れない点を固めておくことが円滑な交渉につながるとしています。

支援機関の選定と契約、資料の準備(ステップ2〜3)

相手探しや交渉を支援する民間の専門業者には、売り手と買い手の双方と契約する「仲介者」と、一方だけと契約してその利益のために動く「FA」があります。ガイドラインは、業務の範囲、契約期間、手数料の体系、実績などを確認し、複数の業者を比べて決めることが重要だとしています。取引先や同業者に自分で打診したり、インターネット上のM&Aプラットフォームを使ったりして、相手探しを自分で進める方法もあります。

仲介者・FAには、契約の前に、手数料や業務の範囲などの重要な事項を書面で説明することが求められています。説明に納得できないときは、他の支援機関や事業承継・引継ぎ支援センターに意見を聞く「セカンド・オピニオン」も有効とされています。手数料の決まり方や、専任条項・テール条項といった契約条項の注意点は、手数料のしくみを解説した記事で詳しく取り上げています。

依頼先が決まったら、決算書などの資料をそろえ、仲介者・FAや士業が面談や資料、現地調査をもとに会社や事業の価値の目安を算定します。算定額がそのまま価格になるとは限らず、最終的には交渉で決まります。株主名簿が整っていない、実際には出資していない人の名義の株式(名義株)がある、会社で使う土地が社長個人の名義になっている、といった点は手続きの妨げになりやすいため、早めに整理しておきましょう。

相手探しから基本合意まで(ステップ4〜6)

仲介者・FAは通常、会社が特定されない概要(ノンネーム・シート)を候補先に送って打診し、関心を示した相手と秘密保持契約を結んだうえで、詳しい資料(企業概要書)を渡します。社名を明かす(ネームクリア)前には、売り手の同意を得ることが仲介者・FAに求められています。打診してほしくない取引先や同業者がいれば、事前に伝えておきましょう。

候補が絞れたら、経営者同士が会う「トップ面談」を経て条件を詰めます。ガイドラインは、トップ面談を相手の経営理念や人柄を直接確かめる重要な機会と位置づけ、絶対に譲れない条件を事前に固めておくことを勧めています。従業員の処遇が気がかりなら、この段階で相手の考えを確かめておきましょう。

条件の大枠がまとまると、基本合意を結びます。スキーム(株式譲渡か事業譲渡かなど)、DD前の時点での価格の予定額、役員・従業員の処遇、最終契約までのスケジュールなどを書面にするもので、DDの結果を踏まえて見直されることがあります。資金繰りの事情で急ぐ場合には、基本合意を省いて最終契約に進むケースもあるとされています。

DDと最終契約(ステップ7〜8)

基本合意の後、買い手は専門家を使って財務・税務・法務などを調べます(DD)。調べる範囲は案件によって異なり、調査が十分でないと、かえって売り手が契約で負う保証の範囲が広がることもあります。詳しくはDDを解説した記事をご覧ください。

DDで見つかった点を踏まえて再交渉し、最終契約を結びます。ガイドラインは、最終契約はできる限り中小M&Aの知見と実務経験のある弁護士の関与のもとで結ぶことが望ましいとしています。とくに次の項目は後のトラブルにつながりやすいため、自分でも中身を確かめておきたいところです。

  • 何を、いつ譲渡するか(譲渡の対象と時期)
  • 代金の額と、支払いの時期・方法(分割払い・後払いの有無)
  • 経営者や従業員の処遇(引継ぎ期間、雇用継続の努力義務など)
  • 経営者保証の扱い(解除・引継ぎを買い手の義務にするか、守られない場合の解除・補償)
  • 表明保証と補償(何を保証し、いつまで、いくらまで責任を負うか)
  • クロージングの前提条件、競業避止義務、契約の解除事由

クロージングと引継ぎ(ステップ9〜10)

クロージングは、株式などの引き渡しと代金の支払いを行う最終段階です。代金が確実に入金されたことを確かめることが欠かせません。不動産の登記や金融機関の担保の解除が必要な場合は、司法書士や金融機関と事前に段取りを整えておきます。

ガイドラインは、最終契約の締結ですべてが終わるわけではないと注意を促しています。クロージングの後も、役員・従業員や取引先への報告、リースや賃貸借などの契約の名義変更、経営者保証の解除、業務の引継ぎといった作業が続き、こうした引継ぎには3か月〜1年程度かかることが多いとされています。M&A後の統合作業(PMI)については、中小企業庁が「中小PMIガイドライン」を公表しています。

クロージング後に約束が守られないなどのトラブルが起きても、仲介者・FAの役務はクロージングの時点で終わっていることが多く、紛争の解決を手伝うことには弁護士法上の制約もあります。ガイドラインは、こうした場合は早急に弁護士へ相談することを勧めています。

かかる期間と、つまずきやすい点

全体の期間は案件ごとに大きく異なり、一律の目安はありません。ガイドラインは、希望する相手とのマッチングだけでも通常は数か月〜1年程度かかると見込み、決断が遅れるほど選択肢は狭まる傾向にあるとしています。業績が苦しい場合は、資金繰りが尽きる前に動き出せるかどうかが大きな分かれ目になります。

一方で、急ぐあまり確認を省くのも禁物です。最終契約からクロージングまでに特段の事情なく2か月以上などの期間を空けることや、代金の分割払い・役員退職慰労金の後払いを組み込むことは、不履行のリスクを高めるとガイドラインは指摘しています。経営者保証を外さないまま連絡を絶つような悪質な買い手の手口と見分け方は、別の記事で詳しく取り上げています。

よくある質問

Q. 仲介会社に頼まず、自分で買い手を探してもよいですか?

A. はい。ガイドラインも、取引先や地域の同業者などを自ら見つけるケースは増加傾向にあるとし、M&Aプラットフォームの活用が有効な場合もあるとしています。ただ、秘密保持や契約書の確認など慎重さが必要な点が多いため、当事者同士で進めることに不安があれば、士業などの専門家や事業承継・引継ぎ支援センターに相談することが勧められています。

Q. 従業員や取引先には、いつ伝えるのが一般的ですか?

A. ガイドラインは、最終契約の前にごく一部の親族や幹部にだけ内密に知らせることはあっても、それ以外の関係者には、原則として可能な限りクロージング後(早くとも最終契約の締結後)に知らせるべきだとしています。情報が早く広まって話がまとまらないと、取引先を失ったり従業員が辞めたりするおそれがあるためです。伝える時期は相手方とも協議して決めます。

Q. 途中でM&Aをやめることはできますか?

A. 最終契約を結ぶ前の段階であれば、条件が合わないときに交渉を打ち切る判断もありえます。ただし、仲介者・FAとの契約には、中途解約の条件や、契約が終わった後も一定期間は手数料がかかりうる「テール条項」が含まれていることがあります。依頼する前に、やめる場合の扱いも書面で確認しておきましょう。

参考にした公的な情報

※ 本記事は一般的な情報提供であり、個別の状況についての税務・法務・会計の判断ではありません。具体的な判断は、税理士・弁護士などの専門家や公的な窓口にご確認ください。 当窓口は、ご相談の内容に応じて専門家や公的な相談窓口をご案内・ご紹介します()。

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