先に結論
経営改善とM&Aは二者択一ではなく、改善に取り組みながらM&Aの選択肢も早めに調べておく「並行」が現実的なことが少なくありません。自力で黒字化できる余地と資金繰りの余裕が大きいほど改善を軸にしやすく、どちらも乏しいほどM&Aや再生の手続きを急いで検討する必要が出てきます。悪化の初期段階ほど取れる手は多いため、兆候の段階で公的窓口や専門家に相談することが大切です。
この記事のポイント
「改善か、M&Aか」は二者択一ではない
業績が落ち込んだとき、「まずは自力で立て直す。M&Aは最後の手段」と考える方もいるでしょう。自社で改善に取り組むことは大切ですが、M&Aは一般に、相手探し、条件の話し合い、買い手による調査(デューデリジェンス)、契約といった段階を踏むため、思い立ってすぐにまとまるものではありません。検討を後回しにしすぎると、いざ必要になったときに相手を探す時間が残っていないことがあります。
「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」は、苦境に陥った会社の典型的な対応として、返済条件の緩和、債務減免などの抜本的な金融支援、スポンサー支援、廃業といった段階を示しています。そのうえで、必ずしもこの順番に進むものではないとし、状況によっては段階を踏んだかどうかにかかわらず早めに決断することや、複数の対応を同時並行で進めることも選択肢から排除されないとしています。
つまり、改善計画を進めながら、会社の強みや数字を整理し、M&Aについて情報を集めておくことは、どちらの道を選ぶにしても無駄になりにくい準備です。改善がうまく進めばM&Aは不要になりますし、思うように進まなかったときにも、慌てずに次の手を選べます。
判断の目安は「改善の余地」と「時間の余裕」
どちらを軸にするかを考えるときは、2つの問いに分けると整理しやすくなります。1つは「自力で黒字化できる余地が現実的にあるか」、もう1つは「資金繰りにどれだけ時間の余裕があるか」です。
「改善の余地」を見極めるには、会社全体の損益だけでなく、商品・取引先・部門ごとの採算を見ることが出発点になります。どこで利益が出て、どこで損をしているのかが分かれば、値上げや不採算部門の見直しといった打ち手に現実味があるかどうかも判断しやすくなります。
「時間の余裕」は、月ごとの入金と支払いを並べた資金繰り表で確かめます。数か月先までの預金残高の見通しを立てておくと、改善策の効果が出るまで持ちこたえられるかが見えてきますし、金融機関と話し合うときの材料にもなります。
ガイドラインは、金融機関が助言する際にも、財務や事業の内容だけでなく、経営者の年齢や健康状態、後継者の有無なども幅広く考慮し、事業承継やスポンサーへの事業譲渡、廃業の可能性まで含めて検討できるようにすることが望ましいとしています。次の対比はあくまで一般的な目安で、当てはまる数だけで結論が決まるものではありません。
改善を軸に進めやすいサイン
- 赤字の原因が特定でき、打ち手が見えている
- 本業に利益が出ている部門がある
- 数か月先までの資金繰りの見通しが立つ
- 金融機関と率直に話し合える関係がある
M&Aや再生の検討を急ぎたいサイン
- 赤字の原因が構造的で、自社だけでは変えにくい
- 返済条件の変更を続けても改善の見通しが立たない
- 資金繰りの余裕が数か月以内に尽きそう
- 後継者がいない、または経営者の体調に不安がある
手遅れになる前に知っておきたい「悪化の段階」
ガイドラインは、一般に、苦境へ移っていく初期の段階ほど金融機関が示せる解決策が多く、会社が取れる選択肢の幅も広いとしています。そのため会社の側にも、兆候に気づいたら速やかに金融機関に報告し、専門家や公的機関、商工会議所などの助言を得て、状況を客観的に把握することが求められています。
たとえば、返済のために借入を重ねている、仕入先への支払いを待ってもらうことが増えた、税金や社会保険料の納付が遅れ始めた、といった状態は、相談を始めたいサインです。「もう少し様子を見よう」と思える段階のほうが、選べる手は多く残っています。
悪化は、災害や取引先の倒産などで突然起きるだけでなく、事業環境の変化や経営者の高齢化などによって段階的に進むことも十分に考えられるとされています。ガイドラインが示す典型的な段階を整理すると、次のようになります(必ずこの順番で進むわけではありません)。
- 1兆候:赤字や資金繰りの悪化が見え始める(選択肢が最も広い時期)
- 2返済猶予などの条件緩和を金融機関に求める段階
- 3債務減免などの抜本的な金融支援が必要になる段階
- 4スポンサー支援や経営の共同化を検討する段階
- 5赤字が続き資金の流出を止められず、廃業を検討する段階
経営改善に使える公的な支援
改善計画づくりには、公的な支援があります。中小企業活性化協議会は、収益力の低下などに悩む中小企業に対し、現状の課題やビジネスモデルを分析したうえで、収益力の改善に向けた計画づくりを支援しています。第一段階の窓口相談までは無料で、次の段階で協議会が外部の専門家に依頼する場合は、相談した会社がその活動費などの一部を負担します。
税理士・公認会計士・金融機関・商工会議所など、国が認定した「認定経営革新等支援機関」の支援を受けて計画をつくる場合は、費用の一部を協議会が負担する制度もあります。資金繰り管理や採算管理など基本的な経営改善が必要な会社向けの「早期経営改善計画策定支援」(通称:バリューアップ支援事業)では、資金実績・計画表やビジネスモデル俯瞰図といった計画づくりを支援し、その計画を早めに金融機関へ提出することをきっかけに経営の見直しを促します。
金融支援を伴う本格的な改善が必要な場合には「経営改善計画策定支援」(通称:405事業)があり、どちらも計画策定と伴走支援の費用の3分の2を協議会が負担します(上限額などの条件は中小企業基盤整備機構の案内で確認できます)。早期経営改善計画に取り組みながら引き継ぎ先の探索も進める場合には、会社の概要をまとめた「企業概要書」の作成費用の一部を協議会が負担する仕組みもあり、改善とM&Aの準備を並行させる際に活用できます。計画の実行とあわせて経営者保証の解除に取り組む場合も、認定経営革新等支援機関である弁護士に依頼する金融機関との交渉費用の一部を負担する仕組みがあります。販路や人材など経営全般の相談は、国が設置するよろず支援拠点で、何度でも無料で受けられます。
M&Aの選択肢を「用意」しておくには
M&Aを検討するといっても、すぐに売却を決める必要はありません。まずは、会社の強み(取引先、技術、許認可、人材など)と、直近の決算や資金繰りの数字を説明できるようにしておくことが、改善計画づくりとも共通する準備になります。ガイドラインも、経営者の高齢化や健康状態の変化などで円滑な事業承継に不安が生じた場合には、金融機関や専門家に早めに相談し、スポンサーへの事業譲渡なども含めて助言を得ることが重要だとしています。
引き継ぎ先の探し方については、国が全国に設置している事業承継・引継ぎ支援センターが無料で相談に応じており、民間の仲介会社などを使う際のセカンドオピニオンとしても利用できます。民間の支援機関に依頼する場合は、国のM&A支援機関登録制度のデータベースで登録の有無を確かめられます。当窓口でも、改善とM&Aのどちらから手をつけるか迷っている段階のご相談を受け、公的窓口や専門家へ相談する順番を一緒に整理しています。
借入の返済や資金繰りがすでに厳しい場合は、通常のM&Aではなく、債務の整理と組み合わせる再生型M&A(スポンサー型)を検討することになります。その場合は、早い段階から債務整理に詳しい弁護士にも関わってもらうことが大切です。
よくある質問
Q. 経営改善計画は自社だけでつくれますか?
A. つくること自体は可能ですが、金融機関に示す場合は、数字の根拠や実行の裏付けが求められます。税理士や公認会計士などの認定経営革新等支援機関の支援を受けて策定する場合は、その費用の3分の2を協議会が負担する仕組み(上限あり)を使えることがあります。
Q. M&Aの相談をしたら、売却しなければならなくなりますか?
A. 相談しただけで売却が決まるわけではありません。公的な事業承継・引継ぎ支援センターは、事業の引き継ぎに関するさまざまな相談に無料で応じています。民間の仲介会社などと契約を結ぶ場合は、手数料や契約期間などの条件を事前によく確認してください。
Q. 改善計画の途中で、M&Aに方針を切り替えてもよいですか?
A. 状況の変化に応じて方針を見直すことはあり得ます。ガイドラインでも、計画と実績のずれが大きい場合には原因を分析したうえで、計画の変更や、法的整理・廃業など別の手段への移行を検討することが示されています。切り替えるときは、金融機関や専門家と早めに共有しておくことが大切です。
参考にした公的な情報
- 中小企業基盤整備機構「認定経営革新等支援機関による支援(再生等)」 https://www.smrj.go.jp/sme/succession/improvement-plans.html
- 中小企業基盤整備機構「中小企業活性化協議会による支援」 https://www.smrj.go.jp/sme/succession/revitalization/index.html
- 全国銀行協会(中小企業の事業再生等に関する研究会)「中小企業の事業再生等に関するガイドライン(令和8年3月一部改定)」 https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/sme-guideline/
- 中小企業基盤整備機構「第三者承継支援について(事業承継・引継ぎ支援センター)」 https://shoukei.smrj.go.jp/about/third-party/
- 中小企業庁「M&A支援機関登録制度」 https://ma-shienkikan.go.jp/
- 中小企業基盤整備機構「よろず支援拠点全国本部」 https://yorozu.smrj.go.jp/
※ 本記事は一般的な情報提供であり、個別の状況についての税務・法務・会計の判断ではありません。具体的な判断は、税理士・弁護士などの専門家や公的な窓口にご確認ください。 当窓口は、ご相談の内容に応じて専門家や公的な相談窓口をご案内・ご紹介します(ご相談の仕組みと紹介の方針)。