先に結論
私的整理は、裁判所を使わずに主に金融機関と話し合い、返済条件の変更や債務の減免を決める方法で、対象となる債権者がすべて同意することが原則です。法的整理は、民事再生や破産のように裁判所の手続きで進める方法で、取引先の債権も含めて扱い、民事再生では債権者の多数の同意と裁判所の認可によって計画が成立します。どの手続きが合うかは会社の状況によって異なり、選択には弁護士の判断が欠かせません。
この記事のポイント
私的整理と法的整理の基本的な違い
借入の返済が難しくなったときに債務を整理する方法は、大きく「私的整理」と「法的整理」に分かれます。私的整理は、裁判所の手続きによらず、会社と債権者(主に金融機関)が話し合い、返済の猶予や債務の減免などについて合意する方法です。法的整理は、破産・民事再生・会社更生・特別清算といった、法律に定められた裁判所の手続きで進める方法です。
法的整理は、事業を続けながら立て直しを図る「再建型」(民事再生・会社更生)と、財産をお金に換えて債権者に配当する「清算型」(破産・特別清算)に分けて説明されるのが一般的です。私的整理にも、事業の再生を目指すものと、事業をたたむ(廃業する)ためのものがあります。
両者の主な違いを並べると、次のようになります。手続きごとに細かな違いがあるため、全体像をつかむための整理として見てください。
私的整理
- 裁判所を通さず、主に金融機関と話し合う
- 対象は原則として金融機関などの債権者
- 成立には対象債権者全員の同意が必要
- 非公開で進めやすく、風評を抑えやすい
- 合意できなければ手続きは終わる
法的整理
- 法律に定められた裁判所の手続きで進める
- 取引先の債権も原則として手続きの対象
- 民事再生は法定の多数の同意と裁判所の認可で計画が決まる
- 開始の決定などが官報に公告される
- 破産では財産をお金に換えて債権者に配当する
私的整理の主な手続き
私的整理には、当事者だけで話し合う方法のほか、中立的な第三者が関わり、あらかじめ定められたルールに沿って進める手続きがあります。中小企業に関係が深いものとして、次の3つを押さえておくとよいでしょう。
1つ目は、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」に定められた中小企業版私的整理手続です。2022年4月から適用され、2026年4月からは一部改定後の内容が適用されています。弁護士や公認会計士などで適格の認定を受けた「第三者支援専門家」を公表されたリストから選び、主な債権者の同意を得たうえで進めます。ガイドラインに法的な拘束力はありませんが、中小企業や金融機関などが自発的に尊重し守ることが期待されています。
再生型の手続きでは、会社が事業再生計画案をつくり、第三者支援専門家がその内容の相当性や実行可能性を調べて債権者に報告します。計画には、実質的な債務超過を5年以内をめどに解消する、経常赤字をおおむね3年以内をめどに黒字にする、といった目安があります(業種の特性などに合理的な理由があれば例外も認められます)。債務の減免を求める場合は、第三者支援専門家に弁護士が必ず加わり、破産した場合より多く回収できる見込みがあるかといった、債権者にとっての経済合理性も確認されます。
資金繰りを安定させる必要があるときは、書面で、すべての対象債権者に同時に返済の一時停止を要請することができ、一定の要件を満たせば、債権者は誠実に対応するものとされています。事業を続けることが難しい会社のためには廃業型の手続きもあり、計画的に廃業することで従業員の転職の機会を確保できる可能性があるなど、早期に廃業する合理性が認められることが要件の一つです。個人事業主も、手続きの趣旨に反しない範囲で読み替えて利用できるとされています。
2つ目は、中小企業活性化協議会の支援を受けて進める方法です。協議会は国が47都道府県に設置した公正中立な機関で、主に地方銀行などの出身者や公認会計士などの士業が支援にあたります。協議会が関わる私的整理は、金融機関などの債権者以外に会社の窮状を知られない手法を取り入れており、風評による信用の低下を避けながら再建を進められるとされています。
3つ目は特定調停です。簡易裁判所で、債権者との間の返済条件などを話し合いによって調整する手続きで、法人か個人か、事業者かどうかを問わず利用できます。裁判所の手続きではありますが、非公開の場で合意を目指す点で、私的整理に近い性格を持っています。合意が成立して調書に記載されると、その内容は確定判決と同じ効力を持ちます。
法的整理の主な手続き
民事再生は、経済的に苦しい法人や個人が、自ら作った再生計画案について債権者の多数の同意を得て、裁判所に認可されることで、事業などの再建を図る手続きです。計画に従って返済し、残りの債務は免除を受けます。計画案の可決には、議決権者(債権者集会に出席するか書面等で投票した人)の過半数の同意と、議決権総額の2分の1以上にあたる同意の両方が必要です。
民事再生では、手続きが始まった後も、原則として会社自身が事業を続け、財産を管理できます。ただし、裁判所が選任した監督委員の監督を受けることがあり、特に必要があると認められる場合には、管財人が選任されて業務や財産の管理を担います。手続開始の決定は官報に公告されるため、取引先などに知られることを前提に準備する必要があります。
民事再生の計画に従って支払われるのは、手続開始前の原因に基づいて生じた債権(再生債権)で、仕入先への未払い代金なども原則として含まれます。一方、一般の優先権がある債権は「一般優先債権」として、再生手続によらずに随時支払うものとされており、すべての支払いが計画の対象になるわけではありません。
破産は、裁判所が選任した破産管財人が会社の財産をお金に換え、債権者に配当する手続きです。破産手続開始の決定も官報に公告されます。このほか、株式会社を対象に、裁判所が選任した更生管財人のもとで事業の維持更生を図る会社更生や、解散後の株式会社の清算が難しい場合などに裁判所の監督下で行う特別清算があります。
私的整理から法的整理に移ることもある
私的整理と法的整理は、最初にどちらかを選んだら変えられないものではありません。ガイドラインは、私的整理の協議がまとまらず、結果として法的整理や別の私的整理に移る場合があることを前提に、会社と金融機関が誠実に協力して円滑な移行に努め、移行前の合意事項などを法の趣旨に反しない範囲で尊重するよう求めています。
中小企業版私的整理手続でも、すべての対象債権者の同意が得られないことが明らかになった場合は、第三者支援専門家が手続きを終わらせます。私的整理から始める場合でも、まとまらなかったときの次の手を最初から弁護士と話し合っておくと、移行の判断を慌てずに行えます。
相談先と、相談前に整理しておきたいこと
どの手続きが合うかは、債務の額や債権者の顔ぶれ、資金繰りの残り時間、事業の収益力、保証や担保の状況などを総合して判断するもので、弁護士の専門的な判断が欠かせません。インターネットの情報だけで決めてしまわず、早い段階で相談することが大切です。
相談先としては、債務整理を扱う弁護士のほか、中小企業活性化協議会があります。協議会は面談や資料の分析を通じて経営上の課題を洗い出し、助言を行う一次相談を無料で受け付けており、ほかの支援機関の活用が適当な場合は、よろず支援拠点などを紹介するとしています。
相談の際は、次のような情報を整理しておくと話が進みやすくなります。すべてそろっていなくても相談はできます。中小企業活性化協議会の窓口相談でも、直近3期分の決算書や会社の概要が分かる資料を用意するよう案内されています。
- 借入先ごとの残高・返済条件と、担保・保証の有無
- 仕入先など取引先への未払いの状況
- 税金・社会保険料の納付状況(滞納の有無)
- 今後数か月の資金繰りの見通し
- 利益が出ている事業・部門はどこか
- 直近3期分の決算書と会社の概要が分かる資料
よくある質問
Q. 私的整理をすると、取引先に知られてしまいますか?
A. 私的整理は主に金融機関との話し合いで進むため、仕入先などの取引先を当事者にせずに進めやすい方法です。中小企業版私的整理手続では、会社と対象債権者は手続きの中で共有した情報について互いに守秘義務を負うとされています。ただし、事業の状況や進め方によって異なるため、情報の扱いは専門家と相談してください。
Q. 税金や社会保険料の滞納も、私的整理で減らしてもらえますか?
A. 中小企業版私的整理手続で対象債権者として挙げられているのは、原則として金融機関や信用保証協会、サービサー、貸金業者などで、税金や社会保険料の納付先は挙げられていません。滞納がある場合は、債務の整理とは別に、税務署や年金事務所へ納付について早めに相談しておく必要があります。
Q. 民事再生をすると、社長は退任しなければなりませんか?
A. 民事再生法では、手続きの開始後も会社が業務を行い財産を管理する権利を持ち続けるのが原則なので、経営者が引き続き経営にあたることも可能です。ただし、裁判所が管財人による管理を命じた場合は、管財人が業務や財産の管理を担います。スポンサーを迎える場合は、その方針によっても変わります。
参考にした公的な情報
- 全国銀行協会(中小企業の事業再生等に関する研究会)「中小企業の事業再生等に関するガイドライン(令和8年3月一部改定)」 https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/sme-guideline/
- 中小企業基盤整備機構「中小企業活性化協議会による支援」 https://www.smrj.go.jp/sme/succession/revitalization/index.html
- 裁判所(東京簡易裁判所)「特定調停」 https://www.courts.go.jp/tokyo-s/saiban/tokubetutyoutei/index.html
- 裁判所「破産・再生」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/hasan/index.html
- e-Gov法令検索(デジタル庁)「民事再生法(第38条・第84条・第122条・第172条の3ほか)」 https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000225
- e-Gov法令検索(デジタル庁)「破産法(第10条・第32条)」 https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000075
※ 本記事は一般的な情報提供であり、個別の状況についての税務・法務・会計の判断ではありません。具体的な判断は、税理士・弁護士などの専門家や公的な窓口にご確認ください。 当窓口は、ご相談の内容に応じて専門家や公的な相談窓口をご案内・ご紹介します(ご相談の仕組みと紹介の方針)。